0710公開 2022年上半期ベストブックス📚

ことりです。7/10に公開したラジオの文字起こし(というか原稿)です。滑舌が終わっていて聞き取れなかったところの確認に使えます。文字で読むほうが好きだという人も。
小鳥遊ことり 2022.07.10
誰でも

こんばんは、日曜読書家のことりです。

このラジオは、元書店員のわたしが、買った本、読んだ本、気になる本、本のニュースについて自由に喋るゆる文学番組です。

第一回目の配信なので、最初にカンタンではありますが、自己紹介をさせてください。

ことりと申します。現在はフツーのOLです。3年間、三省堂書店神保町本店で働いていました。1年ほど「切実」という名前で発信活動もしていました。これは言おうか迷ったんだけど、声でわかる人もいるかな〜と思ったので先に言っちゃいます。そのころを知ってくださっていた方は、お久しぶりですね。お元気でしたでしょうか。私は色々ありましたが元気です。なので、またこうして顔は出さず発信活動を始めた次第です。ま、検索してもらったら顔は全然出てくるんですけどね。

平成7年2月生まれの27歳です。趣味は読書です、と言いたいところですが世間一般よりは読んでいるかな〜程度です。本を読むことよりも、本を買うことのほうが好きかもしれません。

ブクログによると、今年の上半期は42冊読めたみたいですが、あまり記憶にありません。発信活動を辞めていたので、感想を残すクセがなくなっちゃったんですよね。

好きな作家は長野まゆみ、山尾悠子、円城塔です。このラインナップから分かるように、幻想やSFのジャンルを好んで読みます。エッセイ、純文学、人文学も好きです。文芸誌をよく買っています。一時期、文学界、群像、新潮、すばる、文藝を定期購読していましたが、今はやってません。でも、またやろうと思ってます。ちなみに今月は文学界と文藝秋号を買いました。

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さて、自己紹介はこれくらいにして、第一回目の今回は「上半期ベスト5」をご紹介していきます。

お伝えしたとおり、上半期は42冊読みました。詳細に感想はつけてないんですが、5段階評価はつけていたので、星5の中から再読じゃないものを選びました。読んだ順でご紹介します。

まず1冊目は、永井玲衣『水中の哲学者たち』です。こちらは晶文社から1760円で販売されています。概要を晶文社のサイトから引用します。

みなが水中深く潜って共に考える哲学対話。

「もっと普遍的で、美しくて、圧倒的な何か」

それを追い求めて綴る、前のめり哲学エッセイ!

「もっと普遍的で、美しくて、圧倒的な何か」それを追いかけ、海の中での潜水のごとく、ひとつのテーマについて皆が深く考える哲学対話。若き哲学研究者にして、哲学対話のファシリテーターによる、哲学のおもしろさ、不思議さ、世界のわからなさを伝える哲学エッセイ。当たり前のものだった世界が当たり前でなくなる瞬間。そこには哲学の場が立ち上がっている! さあ、あなたも哲学の海へダイブ!

小さくて、柔らかくて、遅くて、弱くて、優しくて、

地球より進化した星の人とお喋りしてるみたいです。

──穂村弘

もしかして。あなたがそこにいることはこんなにも美しいと、

伝えるのが、哲学ですか?

──最果タヒ 

人々と問いに取り組み、考える。哲学はこうやって、わたしたちの生と共にありつづけてきた。借り物の問いではない、わたしの問い。そんな問いをもとに、世界に根ざしながら世界を見つめて考えることを、わたしは手のひらサイズの哲学と呼ぶ。なんだかどうもわかりにくく、今にも消えそうな何かであり、あいまいで、とらえどころがなく、過去と現在を行き来し、うねうねとした意識の流れが、そのままもつれた考えに反映されるような、そして寝ぼけた頭で世界に戻ってくるときのような、そんな哲学だ。(「まえがき」より)

著者である永井玲衣(ながい・れい)さんは、1991年、東京都生まれ。哲学研究と並行して、学校・企業・寺社・美術館・自治体などで哲学対話を幅広く行っている方ということです。

この本はTwitterの読書界隈で話題になっていて買いました。あまりに前評判が良かったので、期待値が爆上がりしてしまって不安でしたが、読み終わりたくないのに一気読みしてしまうほど面白い本でした。

読みながらずっと泣いてしまいそうで、どうして泣いてしまいそうかって、生きる意味とか死んだらどうなるかとか、考えても分からないことをそれでも考えてきた自分がいて。たまにそんな話を他人にしたときに、「そんなこと考えても仕方ないよ」と宥められる寂しさがあって。あ〜こんなことを考えてるってことは他人に言わないほうがいいんだなって諦めてて。

でも、この本はそんな孤独を温めてくれました。分からないものを考え続けることは無意味なんかじゃなくて、そしてそれに答えを必ず出す必要はないけど、頼りない自分なりに、自分の頭で考え続けようね、と手を取ってくれました。

何度も読み返したい一冊です。

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2冊目は、若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』。こちらは文春文庫で792円で買いました。概要を文春文庫のサイトから引用します。

第3回斎藤茂太賞受賞! 選考委員の椎名誠氏に「新しい旅文学の誕生」と絶賛された名作紀行文。

飛行機の空席は残り1席――芸人として多忙を極める著者は、5日間の夏休み、何かに背中を押されるように一人キューバへと旅立った。クラシックカーの排ガス、革命、ヘミングウェイ、青いカリブ海……「日本と逆のシステム」の国の風景と、そこに生きる人々との交流に心ほぐされた頃、隠された旅の目的が明らかに――落涙必至のベストセラー紀行文。特別書下ろし3編「モンゴル」「アイスランド」「コロナ後の東京」収録。解説・Creepy Nuts DJ松永

いざキューバへ!

ぼくは今から5日間だけ、

灰色の街と無関係になる。

ロングセラー傑作紀行文

書下ろし新章

モンゴル/アイスランド/コロナ後の東京

俺は誓いました。

あなたのように

生々しく生きていこうと。

(Creepy Nuts DJ松永「解説」より)

オードリー若林の本は全て読んでいて、なんならかつてやっていた「どろだんご日記」というブログも読んでたし、深夜にやっていた「潜在異色」も見ていたし、十代の頃から若林のことが好きだったんですね。それなのに、この本だけはなんとなく読んでなくて。フラッと本屋に行った時に文庫が平積みされていたので買ったもの。

この本は、キューバ、モンゴル、アイスランドへ行った理由とそこで見たもの感じたことが、なんの気取りもなくフラットに書かれていました。世界はこんなにも広くて美しい!だとか、世界を見て価値観が変わった!とかはなく、ただ各国で過ごした数日間のことが仔細に書かれているだけで、それがすごく良かったです。

旅に出る前のことが書かれた「家庭教師」の章で、若林は東大院生から科目としての社会を学び、新自由主義を知るんだけど、新自由主義とは「政府の積極的な民間介入に反対し、資本主義下の自由競争秩序を重んじる考え方」で、私も正直まったく学がないからよく分かっていないんだけど、そう、分かんないんだ私って!って思って。社会のことや世界、日本のことを何も知ろうとせずに生きてきた自分にショックを受けて。勉強したいなと思わせてくれた一冊です。

紀行文として楽しく読みつつも、若林が身をもって社会や世界を感じて、日本や自分を知る過程が羨ましくもあり、すごいと思って上半期ベストに選びました。

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3冊目は中村文則『何もかも憂鬱な夜に』集英社文庫で616円です。概要を集英社のサイトから引用します。

施設で育った刑務官の「僕」は、十八歳のときに強姦目的で女性とその夫を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している――。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。

芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。

私にしては重めで社会派な選書です。彼氏が中村文則が好きっていうので、読んでみるか〜と手に取りました。もちろん中村文則も、著書も知ってはいましたが、暗くて重たい小説に苦手意識があり、正直今回も「あ〜どうかな〜」と思いながら読み始めたのですが、グイグイ引き込まれて一気読みでした。

生きるとは死ぬとは、希望とは自分とは、みたいな命題に迫った作品を描かれる方ですよね。一緒に海深くまで潜ってじっと目を見つめられているような緊張感があり、サラッと読むことを許さない凄みを感じました。あまりに現実に則した泥臭く闇深い小説なので、読み終わった後も考え続けてしまう重い作品ではあるのですが、他の作品も読みたくなる魔力があります。このあと『私の消滅』も読みましたが、やっぱり難解で、図書館に返すまでに咀嚼しきれなかったのでリベンジしたいです。ちなみに、『教団X』は積んでいます。

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4冊目は村田沙耶香『信仰』文藝春秋で1320円です。概要を文藝春秋のサイトから引用します。

世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の最新短篇&エッセイ

「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」

好きな言葉は「原価いくら?」で、

現実こそが正しいのだと、強く信じている永岡。

同級生から、カルト商法を始めようと誘われた彼女は――。

信じることの危うさと切実さに痺れる8篇。

〈その他収録作〉

★生存

65歳の時点で生きている可能性を数値化した、

「生存率」が何よりも重要視されるようになった未来の日本。

生存率「C」の私は、とうとう「野人」になることを決めた。

★書かなかった小説

「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」という友達の一言に後押しされて、クローンを4体買うことにした。

自分を夏子Aとし、クローンたちを夏子B、C、D、Eと呼ぶことにする。

そして5人の夏子たちの生活が始まった。

★最後の展覧会

とある概念を持つ星を探して、1億年近く旅を続けてきたK。

彼が最後に辿り着いた星に残っていたのは、1体のロボットだけだった。

Kはロボットと「テンランカイ」を開くことにする。

ほか全8篇。

これは読みたてホヤホヤなんですが、いや〜面白すぎて息が上がっちゃいました。どの短編も凄まじい威力を持っていて、どれが好きとか選べません。カルトもクローンも宇宙も全部盛りだけど、根底にあるのは「信じる」こと。私たちが当たり前だと「信じて」いるもののすべてが、本当に「信じる」に値するのか。なんでそれを「信じて」いるのか。理解されることを切実に願いつつ、理解されてたまるかとぶっ放すこの感じに痺れました。収録作である『生存』が一番印象に残ったかな。

そのあと、家にある文芸誌をパラパラ見ていたら新潮2月号に『平凡な殺意』というエッセイが掲載されて、それも興味深く読みました。『コンビニ人間』しか読んだことがなかったので、他の作品も読んでみたいと思いました。

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最後に紹介するのは吉本ばなな『ムーンライト・シャドウ』新潮文庫『キッチン』に収録されています。こちらは473円です。小説のあらすじが載っているサイトを見つけられなかったので、映画化された時のあらすじを公式HPから引用します。

突然恋人を失ってしまったさつきは、現実に向き合うことができず、深い悲しみにくれていた。そんな彼女は、以前聞いたことのある“月影現象”に導かれていく。それは、満月の終わりに、“死んだ者”に会うことができるかもしれないという、不思議な現象だった。

キッチンがあまりにも良かったので、ムーンライトシャドウまで読めていなかったのですが、やっと読みました。私は昔からなんとなく吉本ばなな作品に苦手意識があったのですが、急に読めるようになったのでこれから読んでいきたい気もするし、キッチンとムーンライトシャドウだけ知っていれば十分な気もしています。

ムーンライトシャドウ、真冬の明け方の薄靄のかかった、寒いというよりもひんやりとしたあの感じのする静かな物語でした。愛する人を失った自分は、今までの自分にはもう戻れなくて、でも一緒にいた時の自分のままなような気もして。今ここに生きてしまっている自分の不確かさ、不安定さは死んでいるかのようで、いっそ死んでしまいたい気がして。それでも生活があり、寝て起きれば明日がきて、少しずつ悲しみや痛みが薄れていって、そのことが切なくて。立ち直ることは忘れることとイコールではないけれど、この悲しみや痛みが、あなたがここにいたという証明になると思うような。

何か不思議なことが起こって、それに巻き込まれるように「これまで」と「これから」をうまく線引きして生きていけるようになるなら、それでいいのかもしれないなと少し前向きになるラストが良かったです。

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以上が、2022年上半期ベスト5でした。同じ本がありましたでしょうか?

番外編として、小説ではないのですが2作品紹介させてください。

タイザン5『タコピーの原罪』集英社から上下巻で1353円です。上半期、一番熱狂してたのはこの漫画じゃないでしょうか。私もジャンププラスで毎週追いつつ、コミックスも買いました。あらすじを集英社のサイトから引用します。

地球にハッピーを広めるため降り立ったハッピー星人・タコピー。助けてくれた少女・しずかの笑顔を取り戻すため奔走するが、少女を取り巻く環境は壮絶。無垢なタコピーには想像がつかないものだった。ただ笑って欲しかったタコピーが犯す罪とは…!?

毎週TLで考察が盛り上がりすぎていて、どう着地するのかと悪い意味でハラハラしたりもしましたが、ブレることなくちょうどいい結末という感じがして良かったです。0が100になる物語ではなく、−100が0か1になる物語の方が、現代を生きる我々に刺さりやすいんでしょうかね。ハードなストーリーの主人公が小学生という設定もすごい。この時代の空気感を纏った作品として、10年20年後に読んだ時にどう思うか楽しみです。

もう1作品は、吉田誠治『ものがたりの家』パイインターナショナルから2420円です。こちらはイラスト集となっています。パイのサイトから内容を引用します。

物語に出てくるようなユニークな家とその設定を描き、人気を博した吉田誠治の同人誌『ものがたりの家』の決定版が登場!! 既刊『ものがたりの家 I・II』に掲載された全作品に加え、新作15作品、コマ割り絵本、線画、作品解説、メイキングなど、本書初公開となる内容も収録しています。ページをめくる度に新しい物語が始まるような、見て、読んで楽しい美術設定集です。

どの家もぜんぶ興味深いけど、特に好きなのは「几帳面な魔女の家」「失われた書物の図書館」「偏執的な植物学者の研究室」ですかね。いや〜でも本当選べないくらいどの家もこだわりたっぷりで隅々まで舐め回すように見てしまいます。

この家や住人から着想を得て、自分で物語を作りたくなるな〜と創作意欲も湧いてくる一冊です。もちろんオールカラーでたっぷり33軒の家+吉田先生の仕事場も見れて大満足でした!

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さて、今回は上半期ベストブックスをご紹介しました。みなさんも上半期読んだ本の中でこれ良かった〜という本があればぜひ教えてもらえると嬉しいです。来週は文学界8月号についてゆる〜くしゃべろうと思っております。

Twitterでは読了ツイート、Instagramでは読了ツイートより少し詳し目の感想を時差がありますが投稿しています。newsletterでは今回のラジオの文字起こしを配信しておりますので、それぞれご覧いただければと思います。newsletterはTwitterかInstagramから飛べるのでご確認ください。購読はもちろん無料です。

それでは、最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。また来週お会いしましょう。以上、日曜読書家のことりでした。それではまた!

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